こんにちは。沖縄でRC(鉄筋コンクリート)住宅の設計をしている、大城です。
前回、親が70歳になる前に話し合っておきたいことについてお話ししました。今日は、少し視点を変えて、「自分自身の老後」について考えてみたいと思います。10年単位で暮らし方が変わっていくというお話を、これまで何度もしてきましたが、老後もまた、その変化のひとつです。
家の中の事故は、実は交通事故より多い
「家の中は安全な場所」というイメージを持っている人も多いと思いますが、実はそうとも言い切れません。消費者庁がまとめた統計によると、65歳以上の方が亡くなった原因を見てみると、転倒・転落が年間9,509人、誤って喉に物を詰まらせる事故が7,246人、お風呂などでの溺水が6,458人にのぼります。これに対して、交通事故で亡くなった方は2,150人です。家の中で起こりやすい事故だけで、交通事故のおよそ10倍にもなるのです。
転倒は、実は「段差のない部屋」でいちばん多く起きている
「転倒が多いのはお風呂場や階段だろう」と思われるかもしれません。ですが、ある調査によると、転倒事故がもっとも多く起きている場所は、居室や寝室で、全体のおよそ45%を占めています。階段が18.7%、台所や食堂が17%と続き、玄関やお風呂場、トイレは、意外にもそれぞれ数%程度にとどまっています。
段差のない、見た目には安全そうな部屋のほうが、本人も周りの人も「まさかここで転ぶとは」と油断してしまう。だからこそ、事故が起きやすいのかもしれません。
冬のお風呂も、注意が必要です
冬場に気をつけたいのが「ヒートショック」です。暖かい部屋から、冷え切った脱衣所やお風呂場に移動したときに、血圧が急激に変化し、体に大きな負担がかかることを指します。入浴中に急に体調を崩して亡くなる方は、年間およそ1万9千人と推計されており、その多くは、冬場のヒートショックが一因とされています。
沖縄は本州ほど冬の寒さが厳しくないため、ヒートショックのリスクは比較的小さいといえます。とはいえ、冷房のきいた部屋とタイル張りの浴室との温度差は、沖縄でも意外と大きくなることがあります。断熱や換気の工夫は、沖縄でも無関係な話ではありません。
今からできる、バリアフリーの工夫
こうした事故を防ぐために、家づくりの段階で意識しておきたいことがあります。部屋と部屋の間の段差をなくすこと。廊下やドアの幅を、車椅子でも通れるくらい広めにとっておくこと。滑りにくい床材を選ぶこと。開き戸ではなく、引き戸にしておくこと。そして、あとから手すりを取り付けられるように、壁の中にあらかじめ補強の下地を入れておくことです。
これは、これまでの記事でお話ししてきたスケルトン・インフィルの考え方そのものです。骨組み(スケルトン)の段階で、廊下の幅や壁の下地といった「あとから変えにくい部分」に余力を持たせておく。手すりや床材といった「あとから変えやすい部分」(インフィル)は、実際に必要になったタイミングで整えていく。この順番が、無理のないバリアフリーにつながります。
新築時にやっておけば、ほとんど追加費用はかかりません
バリアフリーの工事を、あとからリフォームで行おうとすると、意外とお金がかかります。廊下を広げるだけで数十万円、浴室をまるごとバリアフリーに改修すると、数十万〜数百万円ほどかかることもあります。壁を壊して、下地を入れ直して、また塞ぐ。この手間が、費用を押し上げてしまうのです。
一方、新築の段階であれば、壁を閉じる前に下地を入れておくだけで済みます。手すり用の補強なら、1か所あたり数千円程度で済むことがほとんどです。「今は使わないけれど、将来使うかもしれない備え」を、最初の段階でこっそり仕込んでおく。これだけで、将来の費用を大きく抑えることができます。
介護保険を使えば、リフォーム費用の補助も受けられます
もし将来、要支援・要介護の認定を受けた場合は、介護保険の「住宅改修費」という制度を使うこともできます。手すりの取り付け、段差の解消、床材の変更、引き戸への取り替え、和式から洋式トイレへの変更などが対象で、20万円分の工事費用のうち、7割から9割ほどが介護保険から支給されます(自己負担の割合は、所得に応じて1割から3割です)。
ただし、この制度は工事の前に市区町村への申請が必要で、あとから工事費用が戻ってくる仕組みです。いざというときに慌てないよう、こうした制度があることだけでも、頭の片隅に置いておくとよいと思います。
平屋か、二階建てか、よく聞かれる質問
家づくりの相談を受けていると、「平屋がいいのか、二階建てがいいのか」と、よく聞かれます。老後のことを考えるなら、できれば平屋がおすすめです。理由はシンプルで、階段がないからです。
ただし、平屋には大きな注意点があります。同じ延床面積(実際に使える部屋の広さ)を確保しようとすると、平屋は二階建てに比べて、およそ2倍の土地の広さが必要になります。「そんなことを言われても、今すぐそんな広い土地は用意できない」と思う方も多いはずです。
そんなときは、いっそ割り切ってしまうのも、ひとつの考え方です。車を買うときに「リセールバリュー(将来売るときの値落ちのしにくさ)」を考える人がいますが、家も同じです。将来、平屋に住み替えたいと思ったときのために、今の家はリセールバリュー、つまり資産価値の高い建て方で建てておく。いざとなったら、思い切って売却してしまえばいいのです。
たとえば、土地と建物を合わせて6,000万円で家を建てたとします。そこに20年住んで、5,000万円で売却できたとしたら、どうでしょうか。実際にかかった住居費は、差額の1,000万円です。20年で割ると、1年あたり50万円。月だと4.1万円です。こう考えると、資産価値の高い建て方をしておくことが、いかに大きな差を生むか、イメージしやすいのではないでしょうか。
すべてを叶えようとすると、中途半端な家になる
・二世帯住宅のことも考えたい。
・何かあったときのために資産価値も残しておきたい。
・老後のことも見据えておきたい。
家づくりでは、こうした希望が、次々と頭に浮かんでくると思います。ですが、これらをすべて同時に叶えようとすると、結果として、どれも中途半端な家になってしまいます。
たとえば、二世帯住宅を見据えた家では、親世帯と子世帯、それぞれの生活空間を確保するために、土地にも建物にも、ある程度の大きさが必要になります。
資産価値の高い家では、建物そのものよりも、土地の場所や、建物の構造(RCかどうかなど)が大きく関わってきます。
そして、老後を見据えた家では、建物の構造や、最初の設計そのものが重要になってきます。
このように、それぞれ優先すべきポイントが違います。だからこそ、最初に「この家で、いちばん大事にしたいことは何か」を、はっきりさせておくことが大切だと思います。全部を欲張るのではなく、軸を決める。それが、後悔しない家づくりの、いちばんの近道だと私は考えています。
家を建てる年齢によって、考えておくべきことは変わる
もうひとつ、意外と見落とされがちなのが、「何歳のときに家を建てるか」という視点です。同じ「一生に一度の家づくり」でも、建てる年齢によって、考えておくべきことは大きく変わってきます。
20代で建てる場合、まだ子育てが始まっていなかったり、仕事の都合で転勤の可能性が大きかったりすることも多い時期です。ライフプランそのものが、まだ固まりきっていないことも多いので、無理に将来のすべてを見込むよりも、まずは売却しやすい、マンションや、資産価値を意識した建て方にしておくのが安心です。
20年後は自分が40代、親は60代。親はまだ元気に過ごしていることが多い時期です。
30代で建てる場合も、基本的には売却しやすい物件として考えておくのがおすすめです。
子育てがはじまったばかりで、仕事の都合で住む場所が変わる可能性もまだ十分にあります。
子育てが一段落するのは、20年ほど先のことです。
そのころ、自分は50代、親は70代。ちょうど、親の介護が必要になるかどうか、微妙な時期にさしかかります。
40代で建てる場合も、売却を意識した建て方は変わりませんが、ここからは「二世帯住宅にするかどうか」も、少しずつ視野に入れておきたい時期です。子育てはまだ続いていますが、20年後には自分は60代、親は80代。このころには、親の介護は確実に考えなければならない時期になっています。
自分の家を売って親と同居するのか、実家を売って二世帯住宅を建て直すのか。こうした選択を、具体的に考えていく必要が出てきます。
50代で建てる場合は、これまでとは少し視点を変えて、「自分自身の老後」を意識した住宅を考えたい時期です。
20年後には自分は70代、親は90代。そのころには、親はすでに施設に入っているかもしれませんし、あるいは二世帯として一緒に暮らしているかもしれません。どちらに転んでもいいように、間取りに余白を残しておくことが大切です。
60代で建てる場合は、子育てはとうに終わり、二世帯住宅として親と暮らす選択肢も、現実的には少なくなってくる時期です。
ここまで来たら、資産価値や将来の同居よりも、段差のない平屋など、自分自身が安心して暮らせることを、いちばんに考えてよいと思います。
20年後は自分が80代。
今日お話ししてきたバリアフリーの工夫が、まさに直接効いてくる年代です。
もちろん、これはあくまで目安です。結婚や出産のタイミング、親の健康状態によって、実際にはひとりひとり事情が違います。ですが、「自分が家を建てるのは何歳で、20年後には何が起きていそうか」を、一度、具体的に想像してみること。それだけで、家づくりで優先すべき軸が、ぐっと見えやすくなるはずです。
まとめ ― 「今の自分」だけでなく「将来の自分」のために
家づくりというと、つい「今の自分たち」に合わせて考えてしまいがちです。ですが、これまでお話ししてきたように、家族の形も、体の状態も、10年、20年という単位で少しずつ変わっていきます。老後の自分自身も、その変化の先にいる、もうひとりの家族だと思います。
段差をなくし、廊下や壁の下地に余力を持たせておく。手すりや床材は、必要になったときに整えていく。この考え方は、これまでお話ししてきたスケルトン・インフィルや、一生涯のコストという視点とも、まっすぐにつながっています。「今」だけでなく「将来の自分」のために、少しだけ余白を残しておくこと。それもまた、コスパ最強の家への大切な一歩だと思います。
次回予告 ― 資産価値が落ちにくい家とは
今回、平屋を検討する場面や、家づくりの優先順位を決める話の中で、「資産価値の高い建て方をしておく」という言葉を、何度か使いました。実は、同じような大きさ、同じような見た目の家でも、建て方によって、資産価値の落ち方は大きく変わってきます。
将来、住み続けることになっても、思い切って売却することになっても、資産価値が落ちにくい家であれば、そのときどきで選べる道が広がります。次回は、「資産価値の高い家」というテーマで、どんな土地、どんな構造、どんな間取りが、将来にわたって資産価値を保ちやすいのか、具体的にお話ししていきたいと思います。
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「広さに縛られず、豊かで価値の続く住まいを」
その想いを共有できる方との、丁寧な家づくりを楽しみにしております。
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私自身、4歳と6歳の娘を育てる父親であり、同時に自ら二世帯住宅に暮らす当事者でもあります。現在進行形で子育て世帯のニーズや悩みに向き合い、二世帯同居ならではの奥様のストレスや課題に対する具体的な解決策を持ち合わせています。実体験に基づいたリアルな視点で、親世帯・子世帯の全員が笑顔で暮らせる環境をご提案します。
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